縁切りという言葉を聞くと、よくない言葉のように感じる人も多いのではないでしょうか?一般の人には聞きなれない縁切りという言葉ですが、建築業界にとっては、屋根材の寿命を維持するために欠かせない大事な作業工程の1つです。
そこで今回は、スレート屋根の塗装をする際の大事な作業工程である縁切りの、具体的な施工内容や必要性について分かりやすく解説していきます。
スレート屋根塗装での縁切りとは?
縁切り作業とは、国内で多く普及されているスレート瓦屋根には欠かせない作業の1つです。
スレート瓦屋根をローラーで塗装していくと、瓦と瓦の重ね目に塗料が入り込んでしまい、そのまま乾燥させることで、瓦の重ね目が塗料で塞がってしまう状態になってしまいます。瓦同士の重ね目が塞がったままだと雨水の通り道がなくなってしまい、さまざまな不具合が生じてしまいます。
そのような不具合を起きにくくするために、塗装乾燥後に手作業で塗膜を切っていく作業工程を縁切りというのです。
縁切りの必要性について
スレート瓦屋根には縁切り工程がどうして必要なのかを解説します。
スレート瓦屋根に降り注いだ雨水は、瓦の重なっている隙間を抜けることで屋根内部に雨水が溜まらないような作りなのですが、瓦の重ね目が塗膜で塞がれていると、隙間がないため雨水が屋根内部に溜まってしまいます。
瓦同士の隙間がないことで通気性も悪く、雨漏りや腐食の恐れも出てきてしまうため、縁切り作業は必要となるのです。
もちろん、だれでも簡単にできるものではありません。特に素人が屋根に登って作業するのは危険ですので、専門業者に依頼するようにしましょう。
縁切りしなかった場合のリスクについて
縁切りの必要性でも説明しましたが、縁切りをしないことでさまざまなリスクが生じてきてしまいます。ここからは、縁切りしなかった場合に起こり得る大きなリスク3点について紹介していきます。
雨漏りの原因となる
雨漏りを知らずに放置してしまうと住宅内部の木部のみならず、金属部分も錆びて腐食してしまうなどの二次災害も酷くなり、住宅の寿命を縮めてしまいます。
スレート瓦屋根の縁切りがされていない場合、雨水の逃げ道がなくなりどんどん雨水が溜まってしまいます。これを放置することで、住宅にとって厄介な不具合の1つである雨漏りが発生してしまうのです。
雨漏りするとまた補修が必要になります。それだけでなく、家電や室内備品、生活用品にも支障をきたすケースがありますので、余分な出費と労力がかかってしまいがちです。
通気性が失われてカビが発生
スレート瓦の屋根を塗装した際に縁切りしないでいると、瓦同士に隙間がないことで雨水が溜まったままとなります。そうなると屋根内部に湿気が発生してしまい、屋根材の劣化が進んでしまいます。屋根内部が腐食することに加え、湿気によるカビが発生してしまう恐れも出てきてしまいます。
カビの発生は住宅にダメージを負うだけでなく、胞子が子どもの体内に入り込むリスクも生じるので注意が必要です。
屋根材の寿命が縮む
雨漏りや湿気のリスクでも説明しましたが、縁切りされていないスレート瓦屋根の場合、雨水が屋根内部まで入り込み屋根の下地板までも腐食が進んでしまうことがあります。
一般的には屋根の下地には防水シートを敷いてしますので、少量の雨水程度では大きな被害にはなりにくいものです。
ただ、長期間で雨水の逃げ道がなく屋根内部に侵入してしまうと、屋根自体の防水性も失われ、住宅自体の寿命を縮めてしまう可能性があるため注意が必要です。
さまざまなコストが増える
上記のリスクはすべて補修が必要となります。住宅の寿命が縮むと資産価値が下がりますし、補修には当然ながら出費がかさみます。
余計なコストが増えるばかりですので、縁切りをしないというのはリスク管理の点でも危険となります。
縁切りが不要な屋根も存在する
ここまでスレート瓦屋根における縁切りの必要性について説明してきましたが、すべての屋根材に縁切りが必要なわけではありません。
ここからは屋根塗装を行った場合でも縁切りが不要になる条件について紹介していきます。
塗り替えが不要な屋根材の場合
無機質素材である日本瓦の屋根であれば、塗装自体を行う必要がないため縁切りの必要がありません。
日本で古くから使用されている日本瓦は、瓦同士にしっかりと隙間があるため雨水や結露といったものをスムーズに輩出してくれる屋根材なのです。
ただし、日本瓦の中でもセメントを使用しているセメント瓦の場合は塗装して色付けする必要があるため、縁切りが必要となってきますので、注意が必要です。
吹き付けによる塗装の場合
屋根の塗装にはローラーを使用する「ローラー塗装」と、スプレーガンを使用する「吹き付け塗装」があります。
吹き付け塗装はスプレーガンを使用して霧状になった専用塗料を吹き付けて塗装していくので、塗料が飛散しやすいデメリットはあるものの、施工が早く瓦の隙間に塗料が入り込まないため縁切りが不要となります。
新築で初めて屋根塗装をする場合
新築で住宅を購入後に、初めて屋根塗装を行う場合も縁切りは必要ありません。
新築住宅ですとスレート瓦の重ね目に隙間が十分確保されていることから、塗装を行っても隙間が塗料によって詰まってしまう心配が少ないためです。
2回目以降の屋根塗装の場合には、前回の塗料が残っている可能性もありますので、基本的には2回目以降の屋根塗装の場合から縁切りが必要となってくるということを、覚えておくようにしましょう。
急こう配な屋根と経年劣化が進んでいる屋根の場合
急こう配な屋根ですと、屋根塗装を行っても塗料が隙間に止まりにくく、瓦同士の隙間を確保できるため、縁切りする必要はありません。
一般的に急こう配なやねとは「5寸こう配以上」と言われています。素人にはどれくらいの傾きなのか分かりづらいですので、専門業者に点検してもらい、ご自宅が急こう配かどうかを確認しておくと良いでしょう。
また、経年劣化が進んでいる屋根の場合も縁切りは不要です。スレート瓦は約10年で劣化し始め、先端が反り返ってしまうので、自然と瓦の重ね目に隙間が出来てくるためです。
縁切りの施工内容と費用について
ここまで縁切りの必要性や、縁切りをしないことで起こり得るリスクについて詳しく説明してきましたが、ここからは気になる縁切りの施工内容と費用について紹介していきたいと思います。
縁切りの方法
屋根の縁切りには、「カッター」や「皮スキ」で行うのが一般的です。
これらの道具を使用して、職人さんが1つ1つ丁寧に隙間を作っていく作業を行っていきます。屋根の大きさにもよりますが、一般的な一戸建てで1~2日ほどかかってしまうこともある施工過程となりますので、縁切りは手間のかかる作業の1つといわれています。
縁切りの必需品「タスペーサー」とは
先述しましたが、縁切り作業は手間のかかる工程といえます。タスペーターというアイテムが登場したことで、効率がグッと上がり作業時間の短縮も可能となりました。
便利アイテムであるタスペーターは、株式会社セイムが製造販売している商品で、下地調整や、下塗りが済んだ段階で使用される道具です。
塗装前にあらかじめタスペーターを入れておくことで、十分な隙間を確保できるため塗装しても塗膜で塞がる心配がないのです。
便利なタスペーターですが、こう配が緩やかな屋根、屋根材同士の隙間が4mm以上空いている屋根、アスベスト入りのスレート屋根には使用できない場合もあります。
タスペーターを使用することで従来よりも少しばかり費用がかかる場合もありますが、大切な屋根材に傷を付けずに破損から守るためにも必要性は高いものといえます。
ご自宅の屋根材がタスペーター使用可能かどうかは、専門業者にチェックしてもらっておくことをおすすめします。
縁切りの施工費用
屋根塗装での縁切り費用ですが、一般的な大きさである30坪ほどの住宅1件当たり、平均で5~6万円前後となっています。
また施工期間は職人さんが手作業で1枚1枚塗膜を剥がしていくため、1~2日程度かかってしまうことが多いようです。
縁切りに関わる業者選び
住宅にとって大事な工程である縁切り作業ですから、専門業者選びも慎重に行いたいものです。そこでここからは、縁切り作業をきちんと行ってくれる業者かどうかを見極めるポイントを紹介していきます。
屋根塗装後に縁切りしてくれない業者は要注意
住宅や屋根にとって非常に重要な作業である縁切りを、屋根塗装後でもありながら行わない業者が存在します。縁切りは職人さんの手間暇がかかる作業ですが、素人目には縁切りが行われたかどうか判断できないことを逆手に取り、縁切り作業を省略してくる場合があるのです。
そのような悪徳業者の被害に遭わないためには、見積書の項目に縁切りがあるかどうかを確認するようにしてください。
複数社で相見積もりは必ず行う
専門業者に選ぶ際は、1社だけに見積もり書を出してもらうのではなく、複数社に相見積もりを出すようにしましょう。複数社に見積書を出しておけば、他社と比較できるため高額な請求や、手抜き工事などを未然に防ぐことが出来るためです。
リフォーム詐欺に注意
呼んでもいないのに自宅に訪問営業に来る業者にも注意が必要です。リフォーム詐欺という社会問題となるような悪質なものも多いため、訪問されてもその場で直接契約するのは止めましょう。資料や営業マンの名刺を貰い、インターネットで会社を調べ、他の業者の見積書の内容と比較するなど対策するようにしてください。
まとめ
高温多湿な気候なうえに、近年ではゲリラ豪雨などの大雨が多い日本の住宅において、雨漏りや湿気による屋根材の腐食を防ぐことはとても重要なことです。
スレート瓦の屋根には欠かせない作業である縁切りの特徴をしっかりと理解し、安心できる業者を選ぶことで、ご自宅の寿命を延ばすことは可能ですので、この記事を少しでも参考にしていただき、適切な屋根塗装をしていくように心がけていきましょう。